ある日突然、「離婚」という言葉が頭から離れなくなった
こんにちは。弁護士の石井です。
事務所でご相談をお受けしていると、何十年も連れ添ったパートナーとの関係に悩み、そう静かにお話しくださる方が後を絶ちません。
特に40代・50代という年代は、家族の形が劇的に変わる、人生の大きな転換期ですよね。
お子さんの独立、ご両親の介護、ご自身の老後への不安。
そして、これまで見て見ぬふりをしてきた、ご主人との心の距離。
様々な変化の波が、長年心の底に沈んでいた言葉にならない違和感を一気に浮かび上がらせるのかもしれません。
この記事では、私が弁護士として現場で実際にお聞きしてきたお話をもとに、多くの女性が離婚を考え出したきっかけを厳選してご紹介します。
他の人がどんなことで悩み、何に心を痛めているのかを知ることで、「悩んでいるのは、私だけじゃなかったんだ」と、あなたの心が少しでも軽くなればと思っています。
ここからは、私がこれまでお会いしてきた多くの女性たちの声を基に、離婚という言葉が頭をよぎる理由をご紹介します。
もしかしたら、あなた自身と被る項目があるかもしれません。
①感謝も労いもない。「やって当たり前」という家政婦のような扱い

毎日、朝早く起きてお弁当を作って、掃除して、洗濯しても、『ありがとう』の一言もない。
私が体調を崩していても、当たり前のように食事が出てくると思っている。私は家政婦じゃないのに、、、
ご相談の場で、このような言葉をうつむきながら絞り出す女性に、私は何人もお会いしてきました。
家事を手伝わないくせに、やり方へのダメ出しだけは一人前主体的にやらない人間の、無責任な批評に殺意すら覚えるという方もちらほら。
感謝されない毎日は、少しずつ、しかし確実に人の心をペチャンコにしていきます。
「私はこの家にとって、一体何なのだろう?」という疑問に行き着くのです。

法律的に「家事への貢献」は財産分与などで考慮されます。
でも、そんな法律の話の前に、あなたのその「認めてほしい」という気持ちは、人としてあまりにも当然の感情です。
それは決して贅沢な望みではありません。
②心が通わない。壁と話しているような会話の断絶

今日あったことを話そうとしても、『へぇ』『ふーん』だけ。
スマホを見ながら上の空。そのうち、話しかけること自体を諦めるようになりました。
夫婦の会話がなくなる。
これは、相手への興味を失い、理解しようとする努力を放棄した結果です。
自分の存在そのものが軽視されているようで、家庭で孤立していく感覚。
ご相談の場で、多くの方がこの感覚を語る時、言葉を詰まらせ、涙をこぼされます。

「もう何を話しても無駄だ」と感じるのは、あなたのコミュニケーション能力の問題ではなく、相手があなたの心に耳を傾けることをやめてしまったからです。
③「大丈夫?」の一言もない。

高熱で寝込んでいても、『飯は?』と聞いてくる。
更年期で心身ともに辛い時期なのに、『気の持ちようでしょ』と一蹴される。
私の苦痛は、この人には一生理解されないんだなと悟りました。
体調が悪い時、心が弱っている時こそ、パートナーの本当の姿が見えるのかもしれません。
そんな時にかけられる無神経な言葉が、どれだけ心を深く傷つけるか。
それは暴力に近い、とある方はおっしゃいました。
「この人は、私が本当に動けなくなっても、助けてくれないだろう」という恐怖と諦めは、関係の土台を根底から粉砕してしまうようです。

これは、法的には「扶助協力義務違反」という難しい言葉に繋がる可能性もあります。
ですが、それ以上に「人生のパートナー」として信頼できない、という感覚は、離婚を考える上で非常に重要なトリガーになります。
④子供の教育、お金の使い方などの致命的な価値観の不一致

私は子供の意思を尊重したいのに、夫は自分の学歴コンプレックスを押し付ける。
私は将来のために貯蓄したいのに、夫は趣味に大金を注ぎ込む。
もう、同じ方向を向いて歩けないんです。
結婚当初は愛嬌に思えた小さな違いも、20年という歳月の中で、気づいた時にはもう決して埋まることのない、深い深い溝になっていることがあるんです。
特に、子供の将来や老後の生活といった問題でズレが生じると、「なぜ私はこの人と」という根源的な疑問が生まれてきます。

価値観の違い自体は、どの夫婦にもあります。
問題は、その違いを乗り越えるための対話ができるかどうか。
一方的に自分の価値観で支配しようとするのは、健全な関係ではありません。
⑤絶対に埋まらない義実家との溝

義母に嫌味を言われても、夫は見て見ぬフリ。『うまくやってくれよ』と他人事。
私がどんなに傷ついても、夫は自分の親族という集団を守るだけ。
私だけが、この家で部外者なんだ。
夫に、自分の味方になってもらえない。
その時に感じる孤独感は、きっと想像を絶するものがあるでしょう。
家族の中で、自分だけが孤立しているように感じてしまう。
多くの方が、この感覚を「究極の裏切り」だと表現されます。

「親族との不和」は夫婦関係にも影響を与えます。
重要なのは、夫がどちらの立場に立つかではなく、傷ついているあなたに寄り添う姿勢を見せるかどうかです。
その姿勢がないのなら、それは夫婦としての協力関係の破綻を意味します。
⑥見下し、人格否定

『お前は頭が悪いから』『誰のおかげで生活できてるんだ』暴力はないけれど、言葉で毎日毎日ボコボコに殴られている気分です。
私が悪いんだと洗脳され、自信も気力もすべて奪われました。
目に見える証拠が残りにくいからこそ、これは本当に根が深い、陰湿な支配だと言えます。
巧みに相手の自尊心を引きちぎり、「自分はダメな人間だ」と思い込ませる。
多くの場合、支配する側は無自覚で、被害を受けた側だけが、誰にも相談できずに心を壊していきます。

これは明確な精神的DVです。100%あなたのせいではありません。
まずはその呪いから逃げることが最優先です。
⑦触れられない。女性として存在価値を否定される

もう何年も、夫婦の営みがありません。それどころか、手を繋ぐこともない。
まるで同居人、いや、空気のようです。
女性としての自分は、もうとっくに殺されたんだなと思います。
これは、単なる性生活の問題、という言葉では片付けられません。
相手から「一人の女性」として見られていない、という感覚は、自分の存在そのものを否定されるにも等しいのです。
その親密さの欠如が、心を深く蝕み、自分の価値を見失わせていきます。

これもまた、非常に多くのご夫婦が抱える、デリケートで根深い問題です。
どちらか一方が悪いと決めつけることはできませんが、対話を拒否し、一方的に関係を放置しているのであれば、それはパートナーに対する誠実さを欠いていると言えるでしょう。
⑧子供が巣立った後の「空の巣症候群」と虚無感

子育てに全てを捧げてきました。でも、子供が独立して家を出て行った瞬間、家ががらんとして。
夫と二人きりになっても話すこともなく、私はこれから何のために生きていけばいいのか、分からなくなってしまったんです。
「母」という大きな役割を終え、ふと「一人の女性」としての自分に立ち返るタイミング。
でも、そこに夫との温かい関係がなければ、凄まじいまでの虚無感に襲われる、と多くの方がおっしゃいます。
夫を「子育てのパートナー」としか見ていなかった場合、その役割が終わった時、二人の関係そのものが意味を失ってしまうのです。

これは、多くの女性が通る道です。決してあなたが特別なのではありません。
むしろ、これは「妻」「母」という役割から解放され、あなたの人生を再び始めるための大切な転換期なのです。
⑨経済的な依存からの脱却。「自分の足で立ちたい」という渇望

夫の収入に頼って生きるしかない。それが、言いようもなく不自由で。
たとえ収入が減っても、自分の力で稼いだお金で、自分の意思で生きてみたい。そう強く思うようになったんです。
経済的に誰かに依存している状態は、一見安定して見えても、自分の人生のハンドルを他人に握られているようなもの。
言いたいことも言えず、理不尽にも我慢せざるを得ない。
その精神的な従属関係から抜け出したいと願うのは、人間として、自然なものではないでしょうか。

「経済的な自立」は、ご自身の尊厳を守るための非常に重要なテーマです。
すぐに離婚しなくても、パートを始めたり、資格の勉強をしたりと、自立に向けた準備を始めることは、あなたの未来にとって計り知れない価値を持ちます。
⑩私の人生、このままでいいの?

大きな不満があるわけじゃない。でも、ふと思うんです。
あと20年、30年、この色のない毎日が続くだけの人生で、私は死ぬときに後悔しないだろうか、と。
夫が嫌いとか、そういう次元の話じゃないんです。ただ、「私の人生」を生きたいんです。
これが、全ての根源にある、最も切実で、最もパワフルな理由なのかもしれません。
特定の出来事や不満ではなく、自分の人生そのものに対する根源的な問い。
「妻として」「母として」ではなく、「私」として輝きたい、という想い。
これまで誰かのために生きてきた女性が、ついに「自分の幸せ」に目を向けた瞬間に生まれる、最も尊い欲求ではないでしょうか。

「自分の人生を取り戻したい」
これ以上に正当で、力強い離婚理由はありません。
2 さいごに
ここまでお読みいただき、本当にありがとうございます。
今回の内容を見て、いくつも頷いた方もいれば、自分の気持ちは少し違うと感じた方もいるかもしれませんが、どちらにせよ、大切なのはあなたの感覚そのものだと思います。
その感覚に、良いも悪いも、正しいも間違いもありません。
- 私が我慢すれば
- これくらいで辛いなんて、贅沢だ
- 離婚するほどの理由じゃないし
そうやって、あなたの心の中に響く小さな声を、もう押さえつけないでください。
離婚を決断する必要なんて、まだありません。
白黒つける必要もありません。
まずは、あなたがこれまで誰にも言えずに胸の内に溜め込んできた、その言葉にならない想いを、誰かに話してみませんか。
法律相談は、戦うためだけの場所ではありません。
あなたの心が少しでも軽くなるように、絡まった思考の糸を一緒に解きほぐしていく、そんな整理の場所としても、使っていただきたいと思っています。
あなたの心の霧が晴れ、あなたらしい未来を選び直すための一歩を、私が全力でサポートします。
いつでも、あなたの声をお待ちしています。