こんにちは。 弁護士の石井です。
この記事を開いてくださったあなたは、もしかすると今、とてもつらい気持ちを抱えているかもしれません。
パートナーからの心ない言葉や、時には暴力に、身も心もすり減らし、「もう限界かもしれない」と感じながらも、誰にも言えずにたった一人で耐えているのかもしれません。
そして、一番つらいのは、心のどこかで「私が何か悪いことをしたのだろうか」「私が我慢すれば、丸く収まるんじゃないか」と、ご自身を責めてしまっていることかもしれません。
これまでにたくさんの方から離婚のご相談を受けてきましたが、その多くが、自分を責めてしまう苦しみを抱えていらっしゃいました。
でも、まず一番にお伝えしたいことがあります。

あなたは、決して悪くありません。
どんな理由があっても、暴力を振るわれていい人なんて、どこにもいないのです。
この記事では、難しい法律の話をするつもりはありません。
まずは、ある女性の物語に耳を傾けていただき、そこから、あなたの心が少しでも安らげる場所を見つけ、これからのことを考えるための「最初の一歩」について、一緒に考えていけたらと思っています。
この記事が、ほんの少しでも出口を照らす光になれたらと、心から願っています。
これは、以前ご相談にいらした美和さん(仮名)のお話です。
美和さんが、のちに夫となる康さん(仮名)と出会ったのは、自然な成り行きでした。
二人はすぐに意気投合し、恋に落ち、周りからも祝福されて結婚。20代半ばだった美和さんは、幸せな家庭を築いていけると信じていました。
最初の数年間は、まさに順風満帆。お子さんにも恵まれ、美和さんは仕事と家庭を両立させていました。
しかし、結婚から数年が経った頃、康さんが美和さんにお願いをします。

仕事、辞めてくれないかな。家にいて、家族を支えてほしいんだ
美和さんは少し悩みましたが、康さんの強い希望を受け入れ、専業主婦として家族のために全力を尽くすことを決意しました。
その頃からだったでしょうか。
康さんの態度が、少しずつ変わり始めたのは。
仕事のストレスなのか、理由はわかりませんが、ほんの些細なことで、食卓に怒鳴り声が響くようになりました。
そして、ある日を境に、康さんは美和さんに手を上げるようになったのです。
初めての暴力に、美和さんは頭が真っ白になり、何が起きたのか、理解できなかったといいます。
そして、一番に思ったのは「私が、何か悪いことをしたんだろうか?」ということでした。
その日から、美和さんは自分を責め、康さんの機嫌を絶えず伺いながら生活するようになっていきました。

私が我慢すれば、きっと元に戻るはず。
そう信じて。
しかし、その願いとは裏腹に、暴力は次第にエスカレートしていきました。
お子さんの前でも、それはお構いなし。
大好きだったお母さんが、お父さんに怯える姿を見て、お子さんの笑顔が失われていくことに、美和さんの心は張り裂けそうでした。
そして、運命の夜が訪れます。
その日の康さんの暴力は、これまでになく激しいものでした。
美和さんは、ついに意識を失うほどの怪我を負ってしまったのです。
お子さんの必死の泣き叫ぶ声で、かろうじて目を覚ました美和さん。
その小さな背中を見つめながら、血の気が引いていく頭の中で、はっきりと一つの想いが生まれました。

このままでは、いけない。この子たちまで、壊れてしまう。
私が、強くならなければ。
その夜、彼女はボロボロの身体でインターネットを検索し、私の事務所を見つけてくれたのです。
初めてお会いした日、不安と恐怖で声が震えていた彼女の姿を、私は今でも忘れることができません。
美和さんは、私に相談してくれた後、すぐにお子さんを連れて実家へ避難しました。
そして今、私に離婚の手続きを任せていたき、ご自身は新しい仕事を見つけ、お子さんとの穏やかな生活を送っています。
先日お会いしたとき、彼女は晴れやかな笑顔でこう話してくれました。

頭の上にあったもやもやが消えて、自分の人生がこんなにも輝いて見えるなんて思いませんでした。
と。
2 なぜ、逃げ出せないのか
美和さんの物語を読んで、どう感じられたでしょうか。
「自分と重なる」と感じた方も、いらっしゃるかもしれません。
- 私が至らないから、彼を怒らせてしまうんだ
- 子どものためには、父親がいた方がいいはず
- 家を出ても、経済的に一人でやっていく自信がない
- 離婚なんて、世間体が悪い
こうした想いは、あなたの優しさや責任感の強さの表れです。
パワハラは、あなたの優しさや責任感の強さにつけ込んで、少しずつあなたから自信と、自分らしく生きる力を奪っていきます。
でも、どうか思い出してください。

あなたは、誰かの機嫌のために生きているわけではありません。
あなたの人生は、あなたのものです。
そして、お子さんにとっても、一番大切なのは、お母さんが心からの笑顔でいられることだと思うんです。
3 あなたと、あなたの大切な人を守るための「最初の一歩」
今の状況から抜け出すための道は、必ずあります。
ここからは、あなたの心と身体の安全を守るために、今すぐにできる「最初の一歩」について具体的にお話しします。
3-1 何よりもまず「安全な場所」へ避難すること
私が美和さんにお伝えしたのも、まずこのことでした。

何よりも優先すべきは、あなたの心と身体の安全です。
あなたの命と心を守ること以上に、優先されるべきものはありません。
それは「逃げる」のではなく、自分と子どもを守るための「勇気ある行動」です。
ご実家や信頼できるご友人、または公的なシェルターなど、まずは物理的に距離を置くことを考えてください。
3-2 つらい記憶を「未来のお守り」として記録する
つらい記憶を思い出すのは苦しい作業ですが、もし心の余裕があれば、「何があったか」を記録に残しましょう。
医師の診断書、怪我の写真、暴言のLINE、いつ何をされたかを書いた日記。
それらが後々、あなたの言葉の信憑性を支え、あなたを助ける大切なお守りになります。
3-3 離婚の手続について
安全な場所に身を寄せ、少しだけ心が落ち着いたら、これからのことを少しずつ考えていきましょう。
焦る必要はまったくありません。
- 離婚するにしても、どうすればいいの?
- 相手と話すなんて、怖くてできない
もちろん、ご自身で相手と直接話す必要はありません。
弁護士にご依頼いただければ、私たちがあなたの代理人となって、相手方との連絡や交渉、そして家庭裁判所での調停などの手続きをすべて進めます。
あなたには、これから先の穏やかな生活のことだけを考えてほしい。
そのための盾になるのが、私たち弁護士の役目です。
具体的な離婚までのフローをまとめてみましたので、ご参考までに。

2-4 生活を守るためのお金(婚姻費用)について
「家を出たら、生活費はどうしよう」という経済的な不安には、「婚姻費用」という、別居中の生活費を請求する権利があります。
4 さいごに
あなたがもし、「私が我慢すれば」と自分の気持ちに蓋をしているのなら、どうか思い出してください。
あなたは、もっと幸せになっていいんです。
あなたの人生は、誰のものでもなく、あなたのものです。
もし、ほんの少しでも「誰かに話を聞いてほしい」と思ったら、どうか思い出してください。
あなたの気持ちに寄り添い、あなたの味方になってくれる専門家がいます。
まずは、あなたが抱えている恐怖や不安、誰にも言えなかったつらいお気持ちを、私に聞かせていただけませんか。
そこから一緒に、あなたにとっての一番良い道を考えていきましょう。
最後までお読みいただき、ありがとうございました。