「もし離婚したら、老後のお金はどうなるんだろう」
熟年離婚を考えたとき、多くの方が最初に不安になるのが、これから先の生活費や年金のことです。
特に、長い結婚生活のなかで家事や育児を担ってきた方ほど、“自分名義の年金が少ないのではないか”という不安を抱えやすいものです。
そんなときに知っておきたいのが、「年金分割」という制度です。
年金分割は、離婚後の生活を支える大切な制度ですが、仕組みが少しわかりにくく、知らないまま離婚の話を進めてしまう方も少なくありません。
- 熟年離婚で年金分割が重要になる理由
- 年金分割の対象になるもの・ならないもの
- 合意分割と3号分割の違い
- 手続きの流れと請求期限
- 離婚前に確認しておきたいポイント
熟年離婚で「年金分割」が気になるのは、とても自然なことです
40代、50代、60代で離婚を考え始めたとき、若い頃の離婚とは違う不安が出てきます。
住まいのこと、生活費のこと、仕事のこと、そして何より、老後のお金のことです。
長年夫婦として生活してきた方にとって、離婚後の年金は、単なる制度の話ではありません。これからの暮らしそのものに関わる問題です。
- 専業主婦や扶養内パートの期間が長かった
- 自分の年金が少ないのではないか不安
- 夫の年金を「半分もらえる」と聞いたことはあるが、よくわからない
- 離婚後の生活費が足りるのか心配
- 離婚の話し合いで、お金のことをどう切り出せばよいかわからない
こうした不安を抱えるのは、決して特別なことではありません。
むしろ、熟年離婚を考える方にとって、年金分割は最初の段階で知っておきたいテーマのひとつです。
そもそも年金分割とは?まずは「何を分ける制度なのか」を整理しましょう
年金分割というと、「夫が将来もらう年金を半分もらう制度」とイメージされることがあります。
ただ、実際には少し違います。
年金分割は、婚姻期間中の厚生年金の記録を分ける制度です。
つまり、毎月受け取るお金そのものをその場で分けるのではなく、将来の年金額の計算のもとになる記録を調整する制度だと考えるとわかりやすいです。
図解|公的年金のイメージ
会社員・公務員などが加入する部分です。離婚時の年金分割は、主にこの部分が対象になります。
原則として、年金分割の対象ではありません。
これらは年金分割制度の対象とは別に検討する必要があります。
ここがポイントです。
- 分割の対象は、原則として厚生年金部分です。
- 国民年金そのものを半分にする制度ではありません。
- 企業年金や個人年金は、別途財産分与との関係で検討する必要があることがあります。
「相手から余分にもらう制度」ではありません
年金分割は、相手から特別に何かを譲ってもらう制度ではありません。
婚姻期間中に夫婦で築いてきた生活のなかで、家事や育児、配偶者の就労を支える役割も含めて評価し、厚生年金記録を調整する制度です。
そのため、熟年離婚において年金分割を考えることは、決してわがままでも、欲張りでもありません。
年金分割には2つの種類があります
年金分割には、大きく分けて「合意分割」と「3号分割」の2つがあります。
どちらが関係するかは、婚姻期間中の働き方によって変わります。
合意分割 話し合い・調停などで決める
- 婚姻期間中の厚生年金記録が対象
- 夫婦の合意、または裁判手続きで按分割合を決めます
- 按分割合の上限は2分の1です
- 共働き期間や、2008年4月1日より前の期間も関係することがあります
3号分割 扶養配偶者だった方の制度
- 2008年4月1日以後の第3号被保険者期間が対象
- 分割割合は2分の1です
- 相手の合意は不要です
- 専業主婦や扶養内パートだった期間がある方は要確認です
どちらに当てはまるか、ざっくり整理する方法
ある場合は、その期間について3号分割が関係する可能性があります。
加入していた場合は、合意分割が関係する可能性があります。
長い婚姻期間がある方は、合意分割と3号分割の両方が関係することもあります。
注意:ご自身では「ずっと専業主婦だったと思っていたけれど、実際には一部に厚生年金加入期間があった」「3号分割だけだと思っていたが、合意分割も必要だった」ということもあります。
迷う場合は、早い段階で情報を整理しておくことが大切です。
年金分割で「変わること」と「変わらないこと」
| 項目 | 年金分割でどうなるか |
|---|---|
| 厚生年金の記録 | 婚姻期間中の記録について、分割の対象になることがあります。 |
| 老齢基礎年金 | 原則として、そのままです。 |
| 将来受け取る年金額 | 分割によって増減する可能性がありますが、実際の金額は加入記録や収入履歴によります。 |
| 企業年金・個人年金 | 年金分割制度とは別に、財産分与との関係で検討することがあります。 |
| その場で現金を受け取ること | 年金分割自体は、現金をその場で受け取る制度ではありません。 |
ここで大切なのは、年金分割だけで老後のお金のすべてが決まるわけではないということです。
熟年離婚では、年金分割だけでなく、財産分与、退職金、住まい、生活費などもあわせて考える必要があります。
「私の場合、いくらくらい増えるの?」という疑問について
一番気になるのは、やはり「実際の金額」だと思います。
ただ、年金分割で増える金額は、婚姻期間、相手の収入、厚生年金加入期間、ご自身の加入歴などによって大きく変わります。
そのため、一般的な記事だけで正確な金額を断定することはできません。
金額に影響しやすい要素
- 婚姻期間の長さ
- 夫婦それぞれの厚生年金加入期間
- 婚姻期間中の収入差
- 扶養配偶者だった期間の有無
- 合意分割か3号分割か、または両方か
記事を読んで「自分は対象かもしれない」と感じたら、まずは「年金分割のための情報通知書」などの情報をもとに、個別に確認していくことが大切です。
年金分割の手続きの流れ
手続きというと難しく感じるかもしれませんが、全体の流れは次のように整理できます。
まずは、日本年金機構で「年金分割のための情報通知書」の取得を検討します。離婚前でも請求できる場合があります。
合意分割では、夫婦の話し合い、調停、審判などで按分割合を決めます。3号分割のみなら、このステップは不要です。
必要書類をそろえて、年金事務所等で手続きを行います。離婚成立後の期限管理も大切です。
離婚前にしておきたい準備
- 婚姻期間を確認しておく
- ご自身と配偶者の働き方を整理しておく
- 扶養内パートや専業主婦期間がいつからいつまでかをメモしておく
- 財産分与や退職金の問題も一緒に整理する
請求期限は必ず確認しておきましょう
年金分割で特に注意したいのが、請求期限です。
現在は、原則として、離婚等をした日の翌日から起算して5年以内に請求することとされています。
ただし、2026年4月1日より前に離婚等をした場合は、従前どおり2年以内となります。
ここはとても大切です。
「まだ大丈夫だろう」と思っているうちに期限が過ぎてしまうと、手続きできなくなることがあります。個別事情によっては例外的な扱いが問題になることもありますが、まずはできるだけ早めに確認することをおすすめします。
離婚の話し合いの中で見落とされやすいポイント
1. 財産分与だけで安心してしまう
預貯金や不動産の話が中心になり、年金分割が後回しになることがあります。
2. 「夫の年金は夫のもの」と思い込んでしまう
年金分割の対象になるのは、婚姻期間中の厚生年金記録です。制度を知らないまま話を終えてしまうのは避けたいところです。
3. 離婚後に考えればいいと思ってしまう
期限の管理や必要資料の準備を考えると、離婚前から意識しておく方が安心です。
公的情報を確認したい方へ
参考になる公的機関のページ
※具体的な必要書類や進め方は、個別事情によって異なることがあります。迷う場合は、行動する前に確認することをおすすめします。
よくある質問
Q. 専業主婦だったら、必ず年金分割できますか?
専業主婦だった期間がある場合、3号分割の対象になる可能性があります。ただし、対象となるのは主に2008年4月1日以後の第3号被保険者期間です。婚姻期間や働き方によって、合意分割もあわせて検討することがあります。
Q. 相手が嫌がっていても手続きできますか?
3号分割については、原則として相手の合意は不要です。合意分割については、話し合いや裁判手続きで按分割合を決めることになります。
Q. 離婚前でも相談した方がいいですか?
はい。むしろ、離婚前に全体像を知っておくことで、財産分与や住まい、老後の生活設計も含めて整理しやすくなります。
Q. 年金分割だけ考えていれば大丈夫ですか?
年金分割は大切ですが、それだけで十分とは限りません。熟年離婚では、財産分与、退職金、住宅、生活費などもあわせて考える必要があります。
まとめ|熟年離婚では、年金分割を「後で考える」では遅いことがあります
年金分割は、熟年離婚を考える方にとって、これからの生活を支える大切な制度です。
ただ、制度そのものを知らなかったり、仕組みを誤解したまま離婚の話し合いを進めてしまったりすると、後から大きな不安につながることがあります。
- 年金分割の対象は、原則として厚生年金部分
- 合意分割と3号分割の2種類がある
- ご自身の働き方や婚姻期間によって、当てはまる制度が変わる
- 請求期限の確認はとても大切
- 熟年離婚では、年金分割だけでなく財産分与や老後資金全体を一緒に考える必要がある
「離婚するかどうか、まだ決めきれていない」
「年金のことを考えると不安で動けない」
そんな段階でも大丈夫です。
法律相談は、離婚を急いで決める場所ではありません。
まずは今の状況を整理し、あなたのこれからの人生を守るために、何を確認しておけばよいのかを知るための場所でもあります。
この記事を書いた弁護士
弁護士 石井 政成
離婚相談ココステップでは、熟年離婚や離婚後のお金に不安を抱える方のご相談をお受けしています。離婚を決めていない段階でも、今の状況を整理しながら、必要な選択肢を一緒に考えていきます。
熟年離婚と年金の不安、離婚を決めていない段階でもご相談いただけます。
年金分割、財産分与、退職金、老後の生活費など、熟年離婚では気になることがたくさんあります。ひとりで抱え込まず、まずは今の状況を整理するところから始めてみませんか。
「自分の場合、年金分割は関係するの?」「離婚前に何を確認しておけばいい?」という段階でも大丈夫です。

弁護士 石井 政成より
熟年離婚のご相談では、「財産分与は聞いたことがあるけれど、年金分割はよくわからない」というお声をよく伺います。
年金分割は、離婚後の生活設計に関わる大切な制度です。離婚をまだ決めていない段階でも、早めに仕組みを知っておくことで、気持ちの整理がしやすくなることがあります。